庭は家族の物語 ── 東京都・中島憲一さん、雪枝さんご夫妻インタビュー

大型連休が過ぎ、人々の暮らしに日常が戻ってきたころ、東京の住宅地の奥まった塀の内側から、ちらちらと覗く色彩に気づくことがあります。そう、そこはきっとプライベートガーデン。だけどプライベートにしておけなくなって溢れ出てしまったバラと、庭づくりに丹精するオーナーさんの気持ち。そして、自然体で愉しむ夫婦の時間がありました。

中島憲一さん、雪枝さん

自宅建て直しの結果、庭の面積が広がったことをきっかけに、2010年より本格的な庭づくりをスタート。敷石、テラス、シンボルツリー植栽など庭の骨格をオザキのお庭の設計・施工部門 グリーンブリーズ(https://green-bz.com)が施工し、その後、夫婦で総体的な庭づくりを楽しんでいる。

夫婦で模索して出した答え。それがこの庭。

門から続くボーダー花壇にいざなわれ、細いアプローチを抜けて家屋をぐるっと回り込んだ先。そこには光あふれるバラの庭がありました。広さはざっと40坪ほど。定年後の夫婦がガーデニングを満喫するには、ちょうどよいサイズといえるでしょう。

写真上部、アーチに咲き誇る白バラ「アルバメイディランド」

「そもそも古くなった二世帯住宅を建て直したのがきっかけです。以前より広くなったほぼ更地状態の庭を、さてどうしようかと。
夫婦でずいぶんと悩みました。」と憲一さん。
当時、50代半ばを迎え、そろそろ定年後の暮らし方を模索した結果、夫婦共通の趣味であるガーデニングを充実させる目標を立てました。

建て替え中、以前の庭に植えられていた植物は鉢上げし、別の場所で保管していたとか。そのなかには憲一さんのお母様が大切に育てていたバラも含まれていたそうです。お母様の影響あってか、憲一さんは大のバラ好き。新しい庭でもバラをふんだんに取り入れることを希望しました。

「バラは、彼の方が先なんです。でもなかなかうまくいかなくて。だから私が猛勉強して(笑)。」(雪枝さん)
夫婦二人三脚の庭づくりは、こうして始まったのでした。

甘く濃厚に香るオールドローズ「フェリシア」

壁面やオベリスクに仕立てられたクレマチスは、バラとの共演になくてはならない存在。

小径を一歩一歩進めば、日なた、日陰、さまざまな構造物との出会いというふうに、景色がドラマチックに変化していく回遊式を取り入れて設計されているため、実際以上の広さが体感できる。

夫婦円満の秘訣は役割分担

では、中島さんの庭がどのように生まれ変わったか、ビフォーアフターを拝見してみましょう。

2階から眺める現在の中島さんの庭。樹木とバラが生い茂る間を小径が縫っていく理想的なガーデン。中央に見えるつるバラ‘アメリカ‘ の輝くようなサーモンピンクの花色と、右下の ‘ルージュ・ピエール・ドゥ・ロンサール‘ の真紅が、景色のなかの見事なアイキャッチャーとなっている。

施工が始まったばかりの2011年ごろ。樹木の若木が配され、敷石が敷かれている様子から、庭の配置を平面的に知ることができる。庭自体は殺風景ながら植えつけ待ちのバラやクリスマスローズが並べられ、期待に溢れた様子が垣間見られる。/写真 グリーンブリーズ提供

中島様邸 平面図とイメージパース

さて、ビフォーアフターの写真を隅々までよく見てみると、植物以外に大きく変化した部分があるのにお気づきでしょうか。
それは庭の構造物。まず現在の写真の右手中央にある小さな小屋は、グリーンブリーズがプランニングして施工したもの。その奥の隣家との境界に、瀟洒な小屋が連なっているのがわかりますか?
じつはこの小屋、憲一さんの手づくりだというから驚きです。ではさっそく小屋の内部をのぞいてみましょう。

「こっちが僕のエリア」と、小屋内部を案内してくれた憲一さん。美しく使い勝手よく「見せる収納」される木工工具と材料、そして趣味の雑貨たち。

長年、木工を愉しんできた憲一さん。いつしか雪枝さんも一緒に愉しむようになり、今は雪枝さんが主にペイントを担っているそう。
庭のあちこちにアンティーク雑貨とともに配された木工小物は、つまり夫婦の合作というわけです。

小さなものは手のひらサイズのミニチュア。そして多肉植物の寄せ植え用プランター、飾り棚、オザキでも購入いただいているガーデニングツールや肥料、薬剤などの保管ケース、庭の片隅で一休みできるベンチ。そして一番大きな作品が、この長~い小屋というわけ。
この庭は、木工作品の展示場を兼ねていて、中島夫妻ならではの個性を際立たせているのです。

「妻が丹精するバラと宿根草の庭に、僕が背景をつくる。そんな感じかな。」(憲一さん)

小屋は夫婦二人の趣味の作業部屋。「雨でも傘をさして、母家からここに来ちゃう(笑)。」(憲一さん)

憧れの、バラに彩られるシェッド。内部は雑貨作品展示として使われている。

左のガーデンシェッドとその傍にある雨水を再利用できる貯水タンク(写真左下)、右のウナギの寝床小屋。全て憲一さんがこしらえたもの。

テラスの隅にあるとんがり屋根の可愛らしい小屋。これにつなげてしつらえられた壁面は、雑貨と多肉の飾り棚。
ひとつひとつ、そして全体で物語を奏でている。

中はスプレー剤などの収納箱。ササッと使いたい必須アイテムこそ違和感なく身近に置きたいから生まれたアイデア。

未来を見据えるバラと宿根草の庭

人が入れる小屋のように大きなものから手のひらサイズの小さなものまで、夫婦合作の木工作品はどれもぬくもりが感じられ、おふたりのお人柄そのもの。
丹精するバラと宿根草のなかに点在させることで、めくるめく回遊式の庭にストーリーを生んでいます。

ほぼ更地から、10数年かけて育ててきたふたりの庭。
その間にお子さまたちも巣立ち、「定年後はガーデニングを堪能したい」という構想時の目標をまさに達成中といえそうです。

リビング前のテラスから繋がるお庭

とはいえ、ガーデニングは目に見える美しさ、楽しさばかりではありません。

「梅雨を前に、この前も薬剤散布をしたばかり。4リットルを4回、だったかしら。」(雪枝さん)
「そうそう、4回。半日がかりだったね(笑)。」(憲一さん)

そんな話をさりげなく、苦もなく笑顔で語るおふたりですが、そろそろ重いものや高い場所が不安になってきたことも事実だそう。

これからは、おふたりの体力に合わせて少しずつ構造を変えたり、手間がかからない植物を選んでいくようにしたいとのこと。
また来年の春も訪ねてみたら、きっと新たな驚きに出会える中島邸に違いありません。

「あ~、いい庭だなぁ~」

編集:ozaki flowerpark
文:ウチダトモコ
写真:今里由紀、荒巻翔平

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