観る・聴く・感じるプレミアム ── 東京都・ミサワさんインタビュー
「お客さまがここにいる時間は、日常を離れて少しでも心地よく過ごしていただきたくて」と語る老舗ヘアサロンの「BOSS」ことミサワさん。サロン、そしてご自宅の心地よさを追求するアイディアルをインタビュー。
ミサワさん
SEIJI MODE BUREAU セイジ モード ビューロ 代表
休日はのんびりと美術館やコーヒー専門店、パン屋を巡るのが大好き。
また、植物園や公園に足を運ぶと、色々なヒントを得られるというのも植物好きならでは。
常に自分のアップデートを欠かさないファッション・リーダー。
プレミアムな時間を過ごしてもらいたくて
のどかな私鉄駅から徒歩約30秒。幹線道路からもすぐという抜群の立地に、趣きのあるヴィンテージマンションがあります。路面のサインボードに誘わるままに階段をとととっと昇って行くと、広々とした植物空間が待ち構えていました。そこは、この地で50年続くヘアサロン。マンションとともに時代に寄り添いながら、この町の移り変わりはもちろんのこと、ヘアメイクもとい、人々の生活を見守ってきたサロンです。先代からサロンを受け継いだミサワさんは、そんなバックボーンを大切にしつつ、流行のヘアメイクはもちろんのこと、同時に「今」のお客さまの感性にかなう店づくりを進めてきました。
「先代の時代、このサロン前は花がメインのバルコニーガーデンだったんです。」(ミサワさん)
そんな花好きの先代から、ヘアメイクのイロハを教わってきたミサワさん。今も時折思い出す先代の口癖が「植物も育てられない人間が、人なんて育てられない」だといいます。
それは、水やりや土づくりを国や地域に合わせるように、人も育った環境や性格、成長スピードを細やかに見てあげる必要があると。
「意外に思われるかもしれませんが、美容師は教育産業なんです。次世代に技術を確実に伝えていく。そんな側面があるから先代は、好きな植物を介してそんなふうに話してたんでしょうね」とミサワさん。
また、ヘアメイクの流行発信地といえば、やはりロンドンやパリ。ヨーロッパの街角の窓辺に欠かせない花といえばゼラニウムですから、同店でもヨーロッパの街並みをリスペクトすべく、バルコニーをゼラニウムなどの花々で彩っていたそうです。
しかしながら時代を経て「今」のお客さまにとって心地よい空間を考えたときに、テラスのリフォームに至ったといいます。
「古くからお付き合いのあるお客さまをスタイリング中、ご自宅の庭をリフォームされたことが話題になったんです。『グリーンブリーズって施工会社にお願いしたんだけど、大満足でね』って」とミサワさん。
センスを信頼しあえるお客さまの口コミだもの。これは信頼できるに決まってる。確信を得たミサワさんはすぐさま、その施工会社を訪ねたのでした。
サロン前ウッドデッキからのバルコニー全景。一見ミスマッチだけれども、無機質な景色に有機的なカラフルさを添えているチェアは、知人の作家の作品。人との縁を大切にするミサワさんならではのコーディネート。
サロン内からの眺め。グリッドの滑り出し窓がアンティークで、思わず憧れてしまうシーン。
ヴィンテージのデメリットがモダンに変貌
さて、当時、バルコニーのリフォームにあたり、ミサワさんが一番「変えたい」と望んだ箇所はどこだったのでしょうか。
「じつはバルコニーの床面タイルだったんです。」(ミサワさん)
また、花がメインのコンテナガーデンは、水やりや花がら摘みなど意外と手間がかかることも、業務との狭間で悩んでいたのだとか。
施工前。ゼラニウムなどのコンテナ植栽がメインの店頭。花のメンテナンスに手間がかかるのも悩みだった。
提供 /グリーンブリーズ(https://green-bz.com)
施工前。石像をアイキャッチとしたグリーンのコーナー。イングリッシュガーデンの一角のよう。
提供 /グリーンブリーズ(https://green-bz.com)
では、リフォームのアフターをつぶさに拝見してみることにいたしましょう!
プランニング時のイメージパース。
提供 /グリーンブリーズ(https://green-bz.com)
以前から、このテラスのアイキャッチャーとして存在感を放っていた石製の杯型プランターには石を積み、水が流れる仕掛けを施しました。街中のざわめきのなかに涼やかに響くちいさな流れの音に、思わず耳を傾けてしまうでしょう。
そして、モノトーンのいくつもの大型プランターは、前面をあえて揃えずに大小を配置。
「じつは、この並びにかなりの試行錯誤を重ねたんです。」(グリーンブリーズ デザイナー)
サロン内から広角で眺めたときに。あるいは路面から階段を上がってきたときに。そして、振り返って反対側から。どの位置から見ても違和感なくすんなりとなじむ並びを追求したそうです。
不規則な配置の間にガビオンを入れ込んだアクセント。そのおかげか、プランターとガビオンが織りなすたくさんのグリッドとキューブたちが、床面のタイルから目を逸らす効果を生んでいるのです。
バルコニーの南側に位置する壁面ゾーン。
ガビオンベンチにも小さなキューブ鉢。
「大好きな多肉植物がどんどん増えてしまって」とミサワさん。
ところどころに潜む、遊び心満載のかわいらしいオーナメント。
サロン内の様々な位置からの眺めも細かく見ていくと、ウッドデッキのガビオンベンチとの高さも絶妙だってことに気づきます。さりげなく計算され尽くしたレベル設定は、黄金比といえそうです。
サロンならではのシャンプー台に座ったとき、ハッとするこの眺め。どこかのリゾートホテルにいるかのよう。向かいの建物からの視界も遮る。
この心地よさを自宅にも呼び込んでみたら
ミサワさんの生活のなかで1日のほぼ大半を過ごす職場、ヘアサロン。思い切ってバルコニーをリフォームしてみたら、お客さまから好評なのはもちろんのこと、働くスタッフもご自分も居心地よさアップを実感しているとのこと。
「テラスのほうへふっと目をやると、好きなグリーンがわーっと見えて、えっ、ここはどこ? って気分になりますね(笑)」(ミサワさん)
そんな心地よいサロンでの働き方を満喫すること約3年。今度はミサワさんにご自宅リフォームの機会が訪れたのです。
住宅地の一角の私道の奥。プライベート感あふれる立地にあるミサワ邸は、築40年 の瀟洒な建物です。決して広いとはいえないスペースを有効に活用でき、家族みんなが心地よくのんびり過ごせるように家屋内外をリフォーム。完成して一息つけば、やっぱり外構部分のバージョンアップにも取り組みたくなるもの。
ところがご自宅は、駅と幹線道路に挟まれながら意外にも広い空が見えるサロン前バルコニーと対照的とも言える、超ミニマムな環境にありました。
ミサワ邸前庭の施工中のようす。
提供 /グリーンブリーズ(https://green-bz.com)
ミサワさんご自身も、フェンスにフックを取りつける。
ミサワ邸の前庭は、家屋に沿って奥に延びる人ひとりがやっと入れるぐらいの幅。じつはこういう場所こそ、グリーンブリーズのデザイナーの腕が鳴るケースなんです。
「玄関ドアとの位置はずれているものの前庭は隣家の腰高窓に面しているので、目隠しのためのフェンスは必須。やっぱり堅牢なウリン材のフェンスを登場させました。」(グリーンブリーズ デザイナー)
施工後。「浮かせる収納」にしたバイクが、なんと空間のアクセントに。くるくる蛇腹ホースが給湯器の目隠しに。
ミニマムなスペースに潜む、無制限の可能性を教えてくれる植栽。つい最奥部まで忍び込みたくなる。
シャビィなフックはホース掛け。空間を無駄にしないアイデアが散りばめられている。
石や灯りも配置して坪庭みたいに。
「ノブドウが伸びてきたらパーゴラに誘引するのが夢!」(ミサワさん)
タイトなスペースながら、なんとユニークな葉を持つアカシアやスモークツリーなど、ミサワさんお気に入りのプランツもしっかり植栽。
「ほんとちっさくて、しゃがみこんでまじまじといつまでも眺めてしまうんです。アリエッティになったみたいに!」(ミサワさん)
ひと一人が立てるだけのスペースが、こんなにも深く楽しいなんて。ミサワさんご満悦です。
造形的な葉が個性のメリアンサス・マヨール。
既存のタイルを1列だけ剥がしてできた隙間に、小さな下草を丁寧に植え、奥への繋がりをこしらえた。
家族で楽しむよくばりテラス
さて、ミサワ邸のリフォームは前庭だけに止まりません。テラスも今回のリフォームの場所のひとつでした。
この超ミニマムなテラス。いってみれば都会の住宅地ならどこにでもありそうなこのテラス。プライバシーはもとより、もっとも気になるのがこちらでもやはり床でした。樹脂製の床は木製より腐食に強く、手入れもラクというメリットがある反面、素材感が気になるのに併せて、
「樹脂製の床は強度を維持しながらの加工が難しいんです」と、グリーンブリーズのデザイナー。
悩んだ末にガーデンデザイナーとしての経験と知恵をフル活用して、絞り出したアイデアがこちら。
プライバシーを守りつつ圧迫感のないフェンスの高さを、時間をかけて念入りに思案するミサワさん。
床に設置したボックスの中に柱を立て、コンクリートを流して固定。その上に土を入れれば小さな小さな植栽ますになりました。
柱には板を渡し、ビス留めしてフェンスに。この板一枚の幅やフェンスの高さについても、ミサワさんは念入りに思考を重ねたそうです。
殺風景だったテラスが、ビカクシダやチランジア・ウスネオイデスなど、今いちばんマストバイな植物が並ぶコーナーに。
植物と、ガレージ風なアイテムが控えめながらセンスよく。
「偶然、キャンプ用テーブルがフィットしたんです」(ミサワさん)。家族でお茶を楽しむことも。
灯りを点ける時間帯の雰囲気もまた格別。こうなったらコーヒーよりもお酒がお似合いかな!?
こちらは明るくのびのびとした2階のベランダ。もちろん植物が続々と増加中。
室内のコーナーにも植物をディスプレイ。
じつはコーヒーを淹れる腕前も評判のミサワさん。リフォーム工事中も職人さんたちに、毎朝自慢のコーヒーを振る舞ってくださっていたというお心遣い。
職場であるヘアサロンは業種らしく流行の最先端をいくクールでモードな装いで。対するご自宅はぐっとゆるやか、穏やかに、溢れんばかりのミサワさんのお家愛が息づく空間。ひとりの人間が丁寧に自分らしく築いてきた人生の両面が、今、植物を介して、大きく膨らみゆく最中なんです!
「今では店が休みの日でも水やりに来てしまったりするんです(笑)」(ミサワさん)
* SEIJI MODE BUREAU セイジ モード ビューロ
https://smb-iogi.com
編集/OZAKI FLOWER PARK
グリーンブリーズ デザイナー/今里由紀
撮影/川崎拓也
取材/ウチダトモコ