願いをカタチにする仕事 ── 埼玉県・大川啓介さん、あすかさんご夫婦インタビュー

静かで落ち着いた住宅地の一角にある小さな金属加工の工房は、一見、それとは見紛うフェイスで私たちを迎えてくれました。プロフェッショナル同士の相互信頼の末、フレキシブルなオフィシャルとプライベートの境界を実現させた家族にインタビュー。

大川啓介さん

株式会社プロシザーズOKAWA 代表取締役
大手広告代理店の営業に長年携わるなかで「人と人を繋ぐ仕事」の面白さ、奥の深さに魅了される。
今は亡き師に理美容ハサミの面白さを教えられ、独学を重ね11年前に独立。
独自理論を持つ高精度な理美容ハサミは業界有名人の愛用者が多数。

専門職だからこそ、他分野の専門家を尊重して

東京都の北部に位置するオザキから、さらに北へ北へと進路をとること小一時間。
流行りのオープン外構がそこそこ目に留まる新しい住宅が立ち並ぶなかに、大川邸はあります。
石垣のような門袖壁とインダストリアルな真っ赤な郵便受けが印象的なエントランス。ハードなイメージになりそうだけれども、ウリン材のフェンスと瀟洒な木立が、柔らかさと季節感を添えてくれています。ちょうど今、アロニアの果実が赤く色づいて、郵便受けの赤と呼応しあっているかのよう。

この石垣のような門袖壁の名称はガビオン。ガビオンとは、金属製のカゴに砕石を詰めた壁のことです。
その起こりは諸説あるものの擁壁や土留として利用されてきたもので、枠組みのカゴを取り替えれば再生可能というフレキシブルな構造物であることから、サスティナブルな側面からも関心が高まっています。ガビオンはオザキの1階店舗内にも施工されているので「あっ!」と思った人も少なくないでしょう。とくに昨今、流行に敏感な人たちの間では、洒落たエクステリアとして注目されているのです。大川邸のフロントガーデンも、オザキのお庭の設計・施工部門 グリーンブリーズ(https://green-bz.com)が施工しました。


大川啓介さん。知る人ぞ知る鋏師です。国内外の多くのヘアメイクアーチスト、スタイリストから支持され、プロシザーズOKAWAのロゴの刻印入りハサミを使うことは、もはや美容業界のステイタス。「美」の世界を支える大川さんが自宅兼工房の前庭を整えようと思ったきっかけは、どんなことだったのでしょうか。

美容ハサミの種類は、用途に応じて50以上あるそう。大川啓介さんが仕上げる美容ハサミは、全てオリジナルのロゴの刻印入り。

桐箱入りの納品スタイルは、もはやジュエリーのよう。

ハサミの汎用パーツを用途や個々のお客様の癖、好みに合わせてひとつひとつ加工して研ぎ、世界でたったひとつの「その人のハサミ」に仕上げていくのが大川さんの仕事。

工房で作業中の大川さんの厳しい眼差しは、リビングルームでのそれとは全くの別人!

 

「この家に住み始めてから7年。芝生にしたり大型コンテナで草花を育てたり、色々試行錯誤してきました。そのうち樹木も大きくなりすぎて、手をつけられなくなってきまして。」 (啓介さん)

施工前の大川邸前庭。よく見かけるような平凡な佇まいだった。

「前庭に面するリビングルームの掃き出し窓は、ほとんど使っていませんでした。子どもたちが庭へ下りるのも危ないし、なんといっても外から丸見えなんで、常にカーテンを締め切っている状態だったんです。せっかく窓があるのに…。」(あすかさん)

庭というスペース自体の悩みに加えて、家族の暮らしと密接に関わる悩み。この双方の視点から、大川さんご夫妻は前庭の整備を本格的に考えるようになったそうです。

さて、そんな大川さんご夫妻が南へ進路を取ること小一時間、オザキへとご来店されました。

 

じつは設計・施工部門 グリーンブリーズのオフィスは店内の最奥部にあり、到達するのがなかなか難しいのですが、大川さんご夫妻は何かに導かれるようにスルスルっと到着したそうです。

「テレビで偶然見かけて、行ってみようかとなったんです。そう、気軽な気持ちで。」(啓介さん)

 

後日、セカンドオピニオンさながら、大川さんご夫妻も複数他社とのミーティングを重ねたんだそう。それでも結果的にグリーンブリーズとの契約に至ったキメテはなんだったのでしょうか?

「企画力と説得力でしょうか。そこにプロフェッショナルとしての気骨を感じました」と啓介さん。

人材会社で多方面のプレゼンテーションやアプローチに携わってきた啓介さん。そして、自営業者の代表取締役社長として技術力という腕一本で生き抜く現在。グリーンブリーズデザイナーの熱心さだけではない、真摯で現実的なアプローチに同じプロフェッショナルとして共感を覚えたといいます。「人と人を繋ぐ仕事」はここでも、新たな縁をつないだのでした。

イメージパース図。
提供 /グリーンブリーズ(https://green-bz.com)

ガビオン施工中の様子。グリーンブリーズが一眼置く腕利きの職人が、枠内に砕石をひとつひとつ積み上げていく。この組み方の美しさこそ腕の見せどころ。

生まれ変わった前庭が暮らしにも広がりをもたらした

では、大川邸の前庭をじっくり拝見してみましょう。

石と金属と木。硬質な素材をやわらげる、アオダモ、アロニア(赤)、ヒサカキ、ガマズミ、ヒメウツギなど。下草にはディアネラやカレックスなど線状の葉を持つものと、小さくまとまるセダムがアクセントに。

赤い果実が特徴的なアロニア。細身の落葉中木で、小さなスペースのシンボルツリーにぴったり。春に咲く花も白く可憐で一見の価値あり。

宅配ボックスの足元の灯り周りには、ヒューケラ、ティアレラ、斑入りツワブキ、フェスツカ・グラウカ、セダムなどをまとめて。

リーフだけでもカラフルでバラエティに富んだコーナーをつくれる好例。

まずは外構部。駐車場との境界をしっかりと隔てるガビオン。「アイアンウッド」とも称される丈夫なウリン材がテラスの骨格です。植栽は和風モダンのテイスト。近頃流行のオージープランツを盛り込んだドライガーデンではなく、ぬくもりと柔らかさを控えめながら主張する雑木を選んだのは、やはりこの場所が家族が住まう家だから。もちろん、丈夫で日本の環境によくなじみ、最低限の手間ですくすくと育っていくという理由も大きいでしょう。

ところでガビオンの内側の様子も気になるところ。外部からの視線を遮る内側には、穏やかなプライベート空間が広がっていました。

「窓やカーテンを開けっぱなしにできるようになり、明るくなりました。リビングルームが広がった感覚です」とあすかさん。

また、
「ここは自宅兼仕事場ですから、たびたびクライアントが訪問してきます。このウッドデッキを、来客が続いたときちょっとお待ちいただけるウエイティングコーナーとしても活用できるとは、プランニング時には思ってもみなかったですけど」と啓介さん。

リビングルームの掃き出し窓から続くウリン材のウッドデッキ。お子さまたちの安全も確保されています。

囲われていることで、愛犬コスモもリードなしで自由に遊べる。ウリン材は堅牢だが、ペットの足を傷めることのないやさしい素材。

草花への水やりや汚れ物の下洗いに、お散歩帰りの愛犬の足洗い場にと活躍する水場。こちらも水栓の赤が効いている。掃除用具は壁面収納でスッキリ。

さて、ここで今一度、ガビオンをクローズアップしてみましょう。

大川邸ではガビオンの厚みぶんに合わせて同じウリン材でプランターをこしらえました。水やりするとガビオンの砕石に水が流れ落ちて、さーっと空気が洗われるよう。夏は打ち水効果もあって、涼しさ倍増だったそうです。

じつはこのプランター載せは、グリーンブリーズ設計のガビオンとしては初の試みとのこと。好評だったようで、次の機会への飛躍の後押しになりそうです。

ベンチに腰掛けたとき、プランターの草花がちょうど手元の位置に。目線近くにグリーンのベルトがあると、雰囲気がぐっと和らぐ。

自宅兼工房という性格上、仕事中、気分転換にほっと一息つく場所が、リビングルームのほかにもこのウッドデッキが加わったという啓介さん。ここはお子さまたちとペットのプレイエリアでもあり、また、プライベートに止まらない、オフィシャルな来客をお迎えする空間でもあります。コンパクトな前庭がフレキシブルなゾーンに変貌して、大川さんご一家の暮らしの幅がぐっと広がったようです。

ほら、日が落ちたあとの時間も、なんだかとっても穏やかで豊か。今にも家族みんなの談笑が聞こえてきそうな夕暮れです。

灯りが照らすエントランスもぬくもりがあふれる。

 

* 株式会社プロシザーズOKAWA  
https://okawa-proscissors.co.jp/

編集/ozaki flowerpark
設計、撮影/今里由紀
取材/ウチダトモコ

 

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