懐かしいプリムラ

あんなに待ち望んだ染井吉野の桜は慌ただしく散ってしまい、かわって八重桜が今を盛りと華やかです。新緑も目に心地よく、外を歩くのにもってこいの季節になりました。
皆様いかがお過ごしでしょうか、店長の山田でございます。

私は仕事柄でしょうか、常日頃から通りすがりに、ここにはこんな植物が植わっている、あそこにはこんな植物が生えているといったことを無意識に認識して、目で追う癖がついているようです。おおげさに申しますと、歩きながら頭の中を次々と植物の名前が通り過ぎていくような感覚です。
通常は流れていくだけですが、普段見慣れなかったり、時々珍しいものが目に入ると、ふと立ち止まることがあります。
先日もたまたま通りがかった植え込みの中に可憐な花を見つけました。

柔らかい黄色がなんとも春らしいプリムラです。左側にはピンクの個体もあり恐らくプリムラ・エラティオール系統の古い品種だと思うのですが、現在では流通しているところを見たことがありません。
プリムラ・エラティオールはヨーロッパ原産のプリムラの一種で、同じくプリムラの原種であるブルガリス、ベリスとともに現在流通しているポリアンサやジュリアンと呼ばれる一般的なプリムラの交配親になった種です。大輪の花をつけるポリアンサは1950年代にアメリカで作出され、そのポリアンサにジュリエという原種をかけあわせて日本でつくられたのがジュリアンです。ジュリアンとは作出した企業が名付けたシリーズ名だったのが、今では冬から早春にかけて出回るあれらの園芸品種の代名詞のようになってしまいました。
ポリアンサやジュリアンが登場する以前は、それほど交配が進んでいない先述の原種に近い園芸種が沢山あったことと思われます。それらの園芸種は原種と同じようにとても強健で何年でも育つ宿根草として世界中の温帯から冷涼な地域で育てられてきたことでしょう。私が出会った画像のプリムラも、ここはとある古い団地の植え込みでしたが、いつから植えられているのかきっとわからないのではないかと思います。
園芸の世界は品種の移り変わりが激しく、つい二、三年前まで主流だったものが、新しく登場したものに取って代わられ、あっという間に見かけなくなることがよくあります。
バラや椿などの重要な花木、洋ランやセントポーリアなどの一部の鉢花では古花、銘花と呼ばれるレジェンダリーな品種が存在し受け継がれて行くのですが、草花にいたってはほとんどの場合絶望的な状況と言えるでしょう。子供の頃家の庭に植わっていたあの花、昔好きだったあの花に、それ以来二度と出会えないことを残念に思われている方もきっといらっしゃるのではないでしょうか。園芸の世界も勿論ビジネスですからそれはいたしかたのないことだとはよくわかっておりますが、寂しいことだなと思います。ごくわずか、そういった懐かしい植物を作ってくださる生産者さんもいらっしゃいますが、我々売る側ももっと勉強し、感性を磨き、良いものは良いと伝えていかないといけないのかもしれません。

先程、このプリムラを見かけたのはある団地だったと申しましたが、その他にも古くからある公園や建物の植え込み、古い民家の庭先、商店の店先で今となっては貴重な品種が誰に注目されることもなく花を咲かせているのに出会うことがあります。積極的に保護されるわけではないそれらの植物が、いつまでもその場所で花を咲かせてほしいと願わずにはいられません。

 

一覧に戻る